(内科専門医、産業医 腎臓病・透析専門)
【はじめに】
まずは、糖尿病による症状と様々な合併症、薬の副作用のような症状、と一気に多くの症状に悩まされたようで本当にお疲れ様でした。
糖尿病には1型と2型がありますが、今回は肥満や食生活などの関与も考えられ、各種抗体検査も陰性の2型糖尿病だと思われます。
【糖尿病の概要】
ご存じの通り、糖尿病は、膵臓のβ細胞から分泌されるインスリンの量が不足していたり(インスリン依存性と言う)、あるいは量が不足していなくても作用不足(インスリン抵抗性)だったりすることによって、体が慢性的に高血糖状態にさらされることが問題になる病気です。
慢性的な高血糖状態により、血管内の細胞の酸化ストレスが増加し、血管を蝕んでいきます。
【糖尿病の合併症】
糖尿病の合併症には、急激に起こる合併症と慢性的な合併症に注意が必要です。
今回ご経験されたのは慢性合併症であると思われ、いわゆる動脈硬化性の疾患に今後も注意が必要と思われます。
有名な慢性合併症は糖尿病性神経症、糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症の3つがあり、この順に出現してくると言われております。緑内障を罹患されており、もしかしたら糖尿病性神経症は既にあるかもしれません。
【緑内障】
慢性的な高血糖状態が続くと、網膜の微小な血管に動脈硬化が起きることで、血管が細くなってしまったり、閉塞してしまったりします。その結果として、網膜の虚血(十分な血流がいかない状態)が起こります。
虚血を何とかしようと、私たちの体は新たな血管を作ろうとします。これを「新生血管」と言います。新生血管は目の表面を対流している房水という液体の流出路をふさぎ、これにより眼圧が上昇します。
受診が早かったため、眼圧を下げる点眼で状態が安定していることは本当に幸いです。定期的な眼科受診は糖尿病の方にとって必要不可欠です。
【糖尿病とメタボリックシンドローム】
糖尿病はメタボリックシンドロームにも含まれ、両者は密接に関連しています。
内臓肥満が基盤となり、脂肪細胞が「アディポネクチン」という、タンパク質の産生を低下させます。
本来、アディポネクチンは脂肪を燃焼させたり、肝臓や筋肉での糖の取り込みを促したりすることで体に非常にいい働きをしています。
しかし、肥満になると、アディポネクチンが低下し、脂肪は更に蓄積され、血管を蝕み、インスリン抵抗性を増大させ、糖尿病を悪化させ悪循環へとはまってしまいます。
【糖尿病と睡眠障害】
睡眠障害に関しては、おっしゃる通り、血糖の乱高下が問題になります。また、肥満による睡眠中の空気の通り道が狭くなることで発症する「睡眠時無呼吸症候群」も糖尿病を悪化させます。
本当に糖尿病と肥満・メタボリックシンドロームは多方面で影響し合い、体の状態を悪循環へ招いてしまいやすいため、注意が必要です。
【末梢血管障害】
糖尿病の大血管の動脈硬化合併症に末梢血管障害があります。
下肢への血流が低下することで下肢がしびれ、長距離の歩行が休憩なしにはできなくなります。下肢の虚血が重症化すると、潰瘍から壊死へ進展し、下肢切断に至る例も多いです。
糖尿病性末梢神経障害は、糖尿病の比較的早期に発症します。
糖尿病患者の方の足の感覚は、糖尿病がない方に比べ鈍く、痛みや温度を感じにくくなります。
したがって、足の潰瘍や壊死などの病変に気がつきにくいです。
ちょっとの傷から感染しやすいのも糖尿病の方の特徴であり、お風呂の際に毎日観察・ケアし、足に合わない靴で傷を作らないことも重要です。
【糖尿病の治療】
治療に関してですが、基本的には食事、運動療法が重要で、その上にお薬の治療が追加されます。
医学的には食事運動療法をしっかり行うことで薬の効果も上がるため、非常に重要です。
しかし、実生活では仕事や家事、育児などでなかなか運動の時間が取れないことや定時の食事摂取が難しいことも大いにあると思います。
よって、無理のない範囲で、しかし何か一つは取り入れるというような考えで実践頂けると、治療効果も上がっていくと思います。
【食事療法】
まずは食事療法に関してですが、摂取エネルギー量の設定や食品交換表の使用が重要になってきます。
摂取エネルギー量に関しては、書籍にも書いて頂いている通り、目標体重×エネルギー係数です。
〔目標体重:身長(m)2 ×22×エネルギー係数。エネルギー係数は活動量により決まっております。〕
肥満がある方は急に目標体重まで減量することは困難かつ危険であるため、当面は3%減を目指していきます。
食事の内容を拝見しましたが、糖質が多い菓子パンやラーメン、丼もの、茶色系のものが目立っており、食物繊維が豊富な根菜類や海藻、基本的に野菜が不足していること、全体の摂取エネルギーが多いことが糖尿病の発症につながったのではないかと考えます。
【運動療法】
次に運動療法についてです。歩行や水泳などの有酸素運動とスクワットや腕立て伏せなどのレジスタンス運動を組み合わせることが理想的です。
糖尿病の合併症によっては急な運動を控える必要がある場合もありますが、基本的には軽い有酸素運動を週3回することがすすめられます。
【薬物療法】
最後に薬物療法についてです。一昔前と比較すると研究の成果もあり、糖尿病の治療薬はインスリン以外にも多くの経口血糖降下薬が登場しており、治療の幅も広がってきています。
現在使用されているジャディアンスとトラゼンタですが、糖尿病の外来で良く使用されるお薬です。
ジャディアンスはSGLT2阻害薬と呼ばれる薬の一種であり、腎臓での糖の再吸収を抑えることで尿へ糖の排出を促進することで血糖値を下げ、体重減少の効果もあります。
しかし、頻用や多尿が見られ、脱水になりやすいこと、性器感染症、皮膚の症状などの副作用があり、特に高齢者では注意が必要な薬剤でもあります。
私自身の外来での経験から、性器感染症は見られることが少なくない副作用と考えています。
トラゼンタはDPP4阻害薬という分類のお薬です。体の血糖値が高い状態のときにインスリン分泌を促進するお薬であり、従来のお薬に多かった低血糖が起こりにくいお薬です。この副作用としては皮膚に水ぶくれができる水疱性類天疱瘡が発生することが近年報告されており、皮膚の観察が重要です。
服用されている2種類の組み合わせは典型的なものであり、今後も内服薬は継続し、食事や運動療法も継続して頂き、メタボリックシンドロームのチェック、動脈硬化のチェックも定期的にされることが望まれます。
決して簡単なことではないですが、老後の健康に大きく影響が出てしまいかねないですので、是非頑張ってください!
【東方糖尿闘病奇譚の感想】
最後に、書籍を読ませて頂いた感想です。
字体も大きさも読みやすく、すらすらと読み進めることができました。
多くの合併症をご経験され、その経緯を後から振り返り自分の行動を見返すことでフィードバックがされており、今後の治療につながるのではないかと考えます。
糖尿病という病気に対してやその合併症に対しても一般の方が理解しやすいように解説を入れておられ、また、引用先の添付もあり非常に良かったように思います。
他人には言いにくい泌尿器の合併症に関しても、同じ経験をしている患者さんの気持ちに寄り添い、早期糖尿病と診断され症状がまったくない患者さんの糖尿病合併症への危機感高めることもでき、また、非糖尿病患者さんの早期発見につながるのではないかと考えます。
【著者より】
E**Ni様、出版後の監修とコメントをいただき、誠にありがとうございました。
東方糖尿闘病奇譚の内容ついてお褒めの言葉をいただき、大変嬉しく思うとともに、自信になりました。
また、本書の内容に沿って糖尿病の概要を分かりやすく説明いただき、ありがとうございます。健康に関心のある、全ての方にとって参考になるのではないかと思います。
本書の医学的・栄養学的内容について大過ないことが証明?されたと思われますので、ユーザーの皆様におかれましては、安心して天下の奇書「東方糖尿闘病奇譚」をお求めください。
匿名A様
(糖尿病治療の現場でご活躍)
今回の新刊、楽しく拝見させていただきました!
文章が面白くてつい夢中になって一気に読んでしまいました。
特にページ40.41の何故食べてしまうのかの自己分析がとても興味深かったです。
糖尿病治療にコーピングを取り入れることの大切さが強調されていて、大切なことだなと思いました。
また、ジャディアンスの包皮炎は話としては聞いていたのですが、実際になった方の話は初めてお伺いしたのでとても参考になりました。
お年寄りだとジャディアンスでの尿路感染症が多いので外来でよく確認するのですが、Agaiさんくらい若い方もちゃんと聞かないといけないのだなと勉強になりました。有難うございます。
ジャディアンスも比較的新しい薬なのですが、尿に糖を出す効果なので、感染症が増えるんですよね。もちろん焦ると思います。
これからも末永く健康で、素晴らしい作品を生み出してください。応援してます!
※文章の一部を再構成しています。
【著者より】
匿名A様、コメント誠にありがとうございました。
現場で働く医師の参考になったとしたら、これほど嬉しいことはありません。
言及いただいた40・41ページをここで公開いたします。
ご興味を持たれましたら、是非特設ページもご覧ください。書籍は電子版も購入できます。